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東京地方裁判所 平成3年(フ)1594号 決定 1992年4月28日

債務者

ケン・インターナショナル株式会社

右代表者代表取締役

林達一

主文

債務者ケン・インターナショナル株式会社を破産者とする。

理由

第一申立債権の存在

一一件記録及び証人丸西輝男の証言によれば、以下の事実が認められる。これに反する<書証番号略>及び証人水野健の証言は信用できない。

債務者は、昭和四七年二月一四日経営コンサルタント業務、ゴルフ場の経営などを目的として設立された会社であるが、昭和六三年三月一七日、茨城県高萩市大字大能字材木沢七三三の二番地外二三筆の土地を対象にゴルフ場を開発中であった株式会社常陸観光開発(以下「常陸観光開発」という。)の全株式を代金四一億円で買い受け、同社を子会社として支配下に置いた。

常陸観光開発は、右ゴルフ場(名称を当初の大能ゴルフ倶楽部から茨城カントリークラブと変更した。以下「茨城カントリークラブ」という。)開発につき、同年一〇月三一日茨城県知事から設計の承認を受け、同年一一月五日建設工事着手の届出を行い、同月一一日会員募集の届出が受理された。

これに先立ち、債務者は、常陸観光開発の親会社としての立場から、茨城カントリークラブの会員の募集をゴルフ会員権の販売業者である株式会社三輝(以下「三輝」という。)に委託することとし、同社の代表取締役であった丸西輝男(以下「丸西」という。)に対し、①入会金及び預託金名下に集める募集金額の目標額を五〇〇億円程度とすること、②一口の募集金額は一般に広く買受けを得やすい二〇〇万円台とすること、したがって募集する会員数は少なくとも二万人以上とすることを指示し、両者は、③右五〇〇億円のうち二〇〇億円をゴルフ場、関連施設の建設費に、二〇〇億円を会員募集費用に充て、その残額一〇〇億円は、債務者もしくは当時その代表取締役で債務者の全株式を所有する水野健(以下「水野」という。)と三輝とが半分ずつ取得し運用することを合意した。

右の基本的合意に基づき、昭和六三年一〇月二〇日、常陸観光開発と三輝との間で茨城カントリークラブの会員募集業務委託契約が締結され、三輝は、同年末ころから超安値を売り物に新聞広告やダイレクトメールの送付などによる大規模な宣伝を行って、営業活動を開始した。三輝は、債務者との基本的合意のとおり、当初から少なくとも二万人以上の会員を募集する計画であったにもかかわらず、このことを秘し、最終募集正会員数一八三〇名と虚偽の事実を販売用パンフレットなどに明示したうえ、営業担当者にもその旨説明させて販売活動を行わせた。そして、系列組織化した多数のゴルフ会員権販売業者らに二五ないし二七パーセントという高率の販売手数料を支払って大量の会員権を販売させ、その結果、販売開始からわずか一年を経過した平成元年一一月末の時点では、会員数約四万人、入金総額約七三二億円に達するに至った。

本件会員権の販売代金は、会計処理上、すべて常陸観光開発の預り金勘定に計上されたうえ、三輝への販売手数料その他諸々の勘定科目に振替整理されていたところ、常陸観光開発の経理帳簿は、平成元年一一月末までは債務者の総務、経理担当の取締役島田清志が記帳していたから、本件会員権の売上高の推移は、債務者により常に把握されていた。また、三輝の幹部社員らは、債務者の当時の代表者水野を会長と呼び、一種畏怖の念を持って接しており、同人が三輝本社を訪れた際には、普段同社の代表取締役丸西が使用する椅子席に座を占めるのが常であった。水野は、三輝の本社に出向いたり、三輝の代表者丸西や幹部社員らを債務者本社に呼び付けるなどして、最終募集正会員数を一八三〇人と記載した前記宣伝用パンフレットなどにより頻繁に会員募集方法や現況の説明を受け、販売代金入金状況の報告を受けていた。会員権の販売価格額を変更する際には、その都度三輝から水野に報告がなされ、同人の了解が得られていた。右のとおり、債務者は、本件会員権の売上高と販売価格を常に把握していたのであるから、募集済み会員数を認識していたことはいうまでもない。

そして、平成元年一一月末までに、前記七三二億円の販売代金のうち少なくとも三八八億円余が常陸観光開発、債務者及び水野が支配する関連会社と水野に交付され、その大部分が本件ゴルフ場建設と直接関連のない事業に費消された。

平成元年八月ころ、三輝の代表者丸西は債務者に対し、常陸観光開発の全株式を債務者から三輝が買い受けたい旨を申し入れた。そして、両者が交渉した結果、売買代金額は形式上は八億円とするが、会員権販売代金から既に債務者、水野やその支配下にある関連会社に交付されていた前記金額も含め、合計六〇〇億円程度を債務者や水野の支配する関連会社らに取得させることを条件として、平成元年一二月一日売買契約が成立し、現金八億円が支払われた。

その後、三輝は、会員総数には何の関心も払わず、あくまで最終募集正会員数一八三〇名と偽りつつひたすら資金集めを目的として会員募集を続行したため、平成二年四月末時点において会員数は約五万一〇〇〇人となり、その後獲得会員数が月平均二〇〇人から三〇〇人程度に減少したものの募集を続け、平成三年二月末以降販売数が極端に減少したが、平成三年七月末において、総募集会員数五万二〇〇〇人(中途解約者一万四〇〇〇人余を除く。)、入金総額は一一〇〇億円を超えるに至った。

申立債権者らは、いずれも、別紙申立債権者会員権購入状況一覧表のとおり、昭和六三年一一月から平成三年六月までの間本件会員権を一五〇万円ないし四〇〇万円で買い受けた者である。

その間、債務者の代表者水野は、その資金がすべて本件会員権販売により獲得されたものであることを認識しながら、前記常陸観光開発の株式売買契約に伴う約定の履行あるいはゴルフ場を開発中の他の会社株式譲渡代金名下に、三輝から債務者をはじめ水野の支配下にある関連会社に億単位の巨額の金員を交付せしめた。債務者、水野及び同人の支配する関連会社が、本件会員権の販売代金の中から三輝を通して取得した金額は、最終的には約七〇〇億円に達する。

二なお、債務者は、①債務者が三輝に対し、募集平均価額を七〇〇万円、募集人数は七〇〇〇名程度とし、多くとも一万名を超えないことを指示したにもかかわらず、三輝が右指示に反して独断で大量に会員権を乱売したものであり、債務者側は乱売の事実を全く認識していなかった、②平成元年一二月常陸観光開発の全株式を三輝に売却した後は、債務者は茨城カントリークラブとは無関係であり、六〇〇億円程度の貸付を受けるという売買契約の際の約束の履行として金員の交付を受けたに過ぎず、三輝からは、貸付の実行は、本件会員権の募集代金からではなく、三輝がスリーブライト計画の名の下に進めていた大規模なゴルフ場を中心とするリゾート開発計画の運用資金から支出するものであるという説明を受け、その旨信じていたと主張し、証人水野健もこれに沿う供述をする。

しかしながら、証人水野健の右①の主張に沿う供述は、客観的事実、すなわち、前記のとおり本件会員権の販売代金はすべていったん常陸観光開発の預り金勘定に計上されていたが、この常陸観光開発の経理帳簿は債務者の総務、経理担当取締役島田清志が記帳していたこと、したがって債務者は三輝がどの段階でどの程度の売上げを上げているかを把握していたこと、債務者の当時の代表者水野は三輝社内では会長と呼ばれ、同社を訪れた際には常に最上席の座を占め、頻繁に三輝の幹部社員らから販売状況などの報告を聴取していたこと、当初の丸西との約定どおりであれば債務者ないし水野側で利用できるのは約五〇億円であったところ(そうでなければゴルフ場の建設ができない。)、これをはるかに超える約三八八億円を取得し費消したことなどの事実及び証人丸西輝男の証言に照らし、到底信用できない。

また、債務者の右②の主張に沿う供述は、客観的事実、すなわち、三輝は平成元年八月にスリーブライトリゾート開発株式会社を設立して開発に着手したばかりで、三輝から債務者やその関連会社などに流れた膨大な金員を賄うに足りるだけの運用資金を得ることはその進展状況からして到底不可能であったこと、そのことは過去に数件のゴルフ場の開発事業を経験した債務者の当時の代表者水野にとっては自明のことであり、水野自身が丸西に対し、三輝の経営能力では右計画実現は到底不可能であるとして、茨城カントリークラブの経営、会員権の販売に専念するよう強く申し向けたほどであること及び証人丸西輝男の証言に照らし、到底信用できない。

三以上の事実関係のもとにおいて、債務者の債権者らに対する不法行為の成否について検討する。

ゴルフ会員権を購入した会員の本質的権利は、ゴルフ場の施設を優先的、継続的に利用してプレーをすることができるところにあるから、この会員の権利が確保されるためには、当該施設の規模に応じて会員数が一定の範囲内に止まることが必要なことは自明の理である。

しかるところ、最終的に販売した会員数である約五万二〇〇〇人については言うに及ばず、販売開始前に債務者と三輝との間で基本的に合意された会員数二万人について見ても、本件のように一八ホールの施設を有するに過ぎないゴルフ場において、そのように多数の会員を有するとすれば、会員だけの利用に限っても、実際にプレーをする機会は極端に限られたものとなり、施設利用権(プレー権)は絵に画いた餅に等しいといっても過言ではなく、会員権という権利自体が全く無意味なものとなることは明らかである。また、このようなゴルフ会員権は、流通性をほとんど期待できないと考えられるから、投資対象の財産としての価値も著しく低いものといわざるを得ない。

にもかかわらず、平成元年一一月末まで実質的に茨城カントリークラブの所有者と同視し得る立場にあった債務者は、三輝に会員募集業務を委託するに際し、募集金額は一般に広く買受けを得やすい二〇〇万円台を中心として少なくとも五〇〇億円以上集めること、したがって募集会員数は少なくとも二万人以上とすることを指示し、三輝において、販売開始後最終募集正会員数を一八三〇人と偽り、あたかも本件会員権が優先的施設利用権を備え投資の対象としての価値も有するかの如く装いつつ募集を続けていることを認識しながら、その募集方法を容認して金集めを続けさせ、募集金額のうちから少なくとも三八八億円余の金員を自己あるいはその関連会社のため費消したものであり、平成元年一二月以降においても、茨城カントリークラブの所有者の立場こそ三輝に譲ったものの、その条件として三輝に債務者側に対する巨額の金員の支払義務を負わせることにより、既に会員数約四万人に達していた本件会員権の販売を続けさせ、その結果本件会員権の実質的価値をさらに一層低下せしめ、その売買代金の中から従前同様に巨額の金員を取得し続けたものである。

そうであれば、債務者は、三輝と共同して、債権者らに実質的価値の極めて乏しい本件会員権をそうでないように装って購入させ、また、会員権を大量に販売し続けることによって本件会員権を購入した債権者らの会員としての権利を故意に侵害したものといえるから、債権者らは債務者に対し、不法行為による損害賠償請求権を有するというべきである。

そして、一五年間無利息のまま据え置かれる預託金返還請求権を含めた本件会員権の現在価値が、いわゆる損益相殺の対象となり得るものと仮定したとしても、そもそも本件ゴルフ会員権は、右に見たように、プレー権としても、投資対象財産としても、実質的価値の極めて乏しいものであるうえ、義務の主体である常陸観光開発が平成三年一〇月二九日水戸地方裁判所において破産の宣告を受けているから、その評価額は著しく低いものにならざるを得ないと認められる。したがって、各債権者らが被った損害の額は、同人らが現実に出損した購入代金額相当額を大きく下まわるものではないと認めるのが相当である。

第二破産原因

一件記録によれば、平成三年七月、週刊誌に「会員権四万九〇〇〇枚も売った茨城カントリークラブ」と題する特集記事が掲載されたのをきっかけに、各地の弁護士会の相談窓口に本件会員権を購入した被害者らの相談が殺到し、多数の弁護士会に茨城カントリークラブ会員権購入者の会弁護団が結成されたこと、右各弁護団に委任状を提出し、明確に不法行為に基づく損害賠償請求権を行使する意思を表明している会員の数は、二万二八〇〇人余に上り、右の請求金額が五五〇億円を下ることはないこと、他方、債務者及びその全株式を保有する水野は、国内において東京都中央区京橋、港区芝大門などに土地、建物を所有しているが、いずれも金融機関等本件会員権の購入者以外の第三者のため巨額の担保権が設定されていること、また、アメリカ合衆国にゴルフ場三か所やホテルなどの資産を所有し、債務者側の主張によればその資産価値は約四億米ドルとのことであるが、そのほとんどについて運営に関する第三者の実施権が設定され、売却にもその同意を要することになっており、直ちに右の評価額で換価することは期待できないこと、以上の各事実が認められる。そして、債務者あるいは水野が右多数会員らからの損害賠償の請求に直ちに応じることができない状態にあることは、本件審尋において債務者自ら認めるところでもあって、債務者が支払不能の状態に陥っていることは明らかである。

第三結論

よって、本件破産の申立ては理由があるから破産法一二六条一項を適用して主文のとおり決定する。

なお、本件について破産法一四二条により左記のとおり定める。

一  破産管財人 東京都新宿区四谷二―八 第二河上ビル八階

弁護士大橋堅固

一  債権届出期間

平成四年七月一七日まで

一  債権者集会の期日

平成四年九月二四日午後一時

一  債権調査の期日

平成四年九月二四日午後一時

平成四年四月二八日午後一時宣告

(裁判長裁判官田中康久 裁判官三代川三千代 裁判官野口忠彦)

別紙申立債権者 会員権購入状況一覧表<省略>

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